全記事一覧

初めの記事

ブログ概要

伝染 - 空のカケラを写し取る

カシャ、カシャと音が聞こえる。

スマホで写真を撮っている音だ。

音の"源"をフワフワと探っていて、お召し物はミリタリー柄で揃えた高校生ぐらいの男女数人が目に入った。自撮りしているようだ。顔には傷ーー特殊メイクを施していた。

駅のホームに電車が止まる。待っていたから乗る。

(あぁ、ハロウィンか)

座席の端でもたれるように電車に揺られながら思った。休日の午前9時過ぎ、人は多い。

朝っぱらから土下座して来た帰りだった。



まだ開いてもいない、質屋の前で。

スーツ姿でアスファルトに頭をつけていた。

なにも金の無心に行っていたわけではない。別段、悪いこともしていない。

二束三文ーー質屋も値段をつけられないほど安い土下座だ。誠意のカケラもない。

僕はこれを「空(カラ)土下座」と呼んでいる。

「男は、そんな簡単に頭を下げるものじゃない!」

よく言われるが、意味が分からない。男やってるつもりもない。でも男だから仕方がない。

(ーーなんでこうなったかな……)

今回の件ではなくて、今までの全部に思い巡らせていた。積み重なって出来た今に。

今から遊びに行くのだろう、車内はどんどんと賑わって来ていた。

少しだけ場を認識して、その場から自分だけを切り離して座席の隅でもたれたままだった。

前を集団が通る。僕の態勢は変わらないままでいーーッ!

覗き込むようにした女の子が、僕の左目の下を指一本でなぞった。

ホームで見たハロウィン軍団の一人。もちろん知らない子だった。

不思議そうに指を宙空に掲げたままで、目を丸くして空の表情で僕を見ていた。

僕の目の前を通りがかったとき、隣接する車両に移動しようとしたときにーー意味不明な行動をしたようだった。

ハロウィン軍団の他はと言えば、皆一様に固まって僕の目の下を撫でた子を見ていた。

フッ、と我に返ったように。その子は、右向け右に僕から離れた。

なんの説明も、釈明も謝罪もなしに彼女は他を引き連れて、隣の車両に移動する。

「なんでこうなったんだろ?」

呟いて、彼女は自分の目の下の特殊メイクで作った傷をなぞった気のした。

質札でもつけて、僕は預かってもらえたのだろうか?

質流れになってーー誰かの元に、渡り歩いて。"なんでこうなった?"は。

コメント

コメントの投稿

非公開コメント