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迷子 - 体験学習

今、生きている世界とほぼ同じだが、別の次元があると聞いた。

一説には、その世界から"こちら"に迷い込んだ自分がドッペルゲンガーの正体だとかなんだとか……。



名前も分からぬ鳥が、ギィーギィーうるさいので目を覚ました。

網戸にした窓から未だ鳴り止まぬ鳴き声と心地よい秋風が入ってきて、ボーっと外を眺めていた。

次にすることはといえば、時間を確認ーー「17:55」をデジタルが示していた。

まだ青さが少しばかり勝っている空は、早朝とはまた味が違い……

そのとき僕は18時に出勤予定だったので、残り5分しかない。完全に間に合わない。

どこをどうあがいても遅刻な現実に、とりあえず急ごうと思った。

が、どうしてか動けない。

寝起きの頭と心地よい風に窓から見える夕暮れの景色が非常にもったいない気がしてならない。

とりあえず遅れる旨の連絡を入れるべきだが、そんな気にすらなれない。

普段、寝起きの頭は決まって覚醒時の混乱を引きずっている。大人になってから、爽やかな朝を迎えた記憶がない。

ずっと、このままの世界であって欲しかった。



習慣は怖い。「今日から仕事に行かないでおこうか」毎度そう思い立って、結局は行く。

ノロノロと用意をして、バイクにまたがりエンジン音と共に煙を上げて走り出した。

(なんだか空いてるなぁ……)

そのときは、それぐらいにしか思わなかった。

いつも渋滞を作っている直進の通りも、歩行者の見れる曲がった先もとにかく空いていた。

と、いうよりは車も人もいない。

(左……曲がらないといけないのに)

そんなことを思いながら、気づけば直進を続け、どんどんと職場からは遠く離れて行く。

大分、長いこと走った。

一度も信号に捕まることなく。

信号を見るという感覚すらなく。

事故一つ起こさず。

ーーなぜか家に帰って来た。

カギを開け、部屋に入り、ショルダーバッグを置いて……

タバコに火を点けた。

…………

ようやく気づいた。

一体なにをしているのか、と。

我に帰り慌ててバッグを持ち上げ、上手く履けない靴を踏み潰しながら、ひしゃげた体勢で靴底に指をねじ込ます。

「17:55」

ケータイの時計はそう示していた。

夢? ではないはずだ。僕はずっと起きていた。

目を覚ました感覚は、一度切りで終わっている、
……これすらまだ夢の途中なのだろうか?

ブーブーとケータイがうるさく泣き出して、画面が切り替わる。

職場からの電話。迫る就業時間に心配した同僚からだった。

ーーすいますん。15分ほど遅れます……

軽い口調で電話は切れ、僕は職場に向かう。



そのまま、いつも通り仕事をして家に帰って来た。

少しだけ……

多分、少しだけ"向こう"に行っていたみたいだ。
そのときはそう思うほかなかったので、どうしようもない。

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