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回夢 - 事前講習

僕の見る夢は、たいがいが意味不明で不鮮明。断片的にしか、その内容を覚えてはいない。

そんな中で、二度、三度見たことのあるような気がする夢がある。



葬式で焼香を上げるさい使われるような火鉢に、無数の細い棒状のものが刺され、香を焚いているような空間。

ぼんやりと霧のように流れる煙が覆う中で、木のテーブルを前にイスに座っている。

まるで、中国の昔話のような雰囲気といえば、伝わるだろうか。

目の前には、木目調のお椀。ヤシの実を半分に割ったようなツルツルと滑らかな質感だ。

添えられたスプーンは、異様に持ち手が長い。

僕はどうしていいか分からず、椀の中を覗き込む。

黄色身を帯びてグツグツと煮えたぎるスープのような液体ーー

ブクブクと泡立つそれは、時折、大きな気泡を作っては「パン!」と弾ける。

僕はなんとかーーそうしなければ、いけない気がしてーーその泡を食べようと、大きく膨らんだところを狙ってスプーンですくう。

が、口元まで運ぶと決まって、シャボン玉のように破裂して食べられない。

その度、弾け飛んだ泡に顔を攻め立てられ、熱い思いをする。

夢の中なので、実際の"熱い"という感覚とは違うかもしれない。何度も挑戦して、いずれは嫌になって投げ出してしまう。

ーーどうしていいか分からず、途方に暮れて目の前の椀を見つめる。



ふと前を見ると、ランニング姿の老人。男性がいて、泡をすくっている。禿頭を剃り上げたような頭で、少し怖い印象の人。

彼は途中で破裂させることなく、泡を口の中へと運び込む。噛み締める度、炸裂音がして苦しそうな顔で悶える。

梅干とレモンを一度に口へ入れたように、顔を思い切りしかめては悶える。机につっぷすようにして拳を握り締め、身体を震わせながら、なんとか耐え忍んでいるのだ。

また泡をすくって、苦悶してーー同じことを繰り返す。

異様に長いその舌は、ひどい火傷を起こしベロベロにめくれて痛々しい。

それでも彼は行為を止めようとせず、淡々と繰り返す。

僕はその男性に、

「泡を食べなければいけないのか?」

「どうすれば、上手く食べられるのか?」

アレやコレや聞くが、なにも答えてはくれない。

まるでできの悪い新入社員にそうするように、無視を決め込む。

そこからまた何度か自力で泡を食べようとするがーー幾らやっても上手くいかずに、泡は途中で弾けて飛ぶ。

その間、半分は意識があるのか「起きろ! 起きろ!」と必死に念じるが、どうにも目が開かない。

諦めて席を立ち、ぼんやりとどこかへ向かう途中、

「おい!」

それまで無視されていた彼に、声を掛けられる。

振り返ると文字通り煙に巻かれた老人が決まってこう言う。

「また、おいで。今のうちにできるように」

"また、おいで"その部分だけが少し優しく、そのセリフを聞けばそこで目が覚める。



目を覚まし、しばらくはじっとりとした寝汗と不安に絡みつかれるその夢は、なぜかすでに数回見ている気がする。

冒頭に記したように、二度、三度見た"ような気がする"のだ。

ただなんとなく。

本当に、ただなんとなく。

地獄というのは、ああいうところなのかなぁ……と考えた。

自らにかせた拷問を、突き動かされるようにただ永遠と繰り返す。

終わりの見えない単純作業を、諦観の念とともにただひたすらに。

やらなくてもいい辛く苦しいことを、「いいんだ……」と自ら進んで行う。

それでも結局は、自分の知らぬところで操作されているような、気づかないだけでやらされているような。

姿の見えぬ監視役に気づいていながら、認めていないような。あくまで、自らの意思であるとしているような。

そんな僕が感じたことも実は、「感じさせられている」ことだとすれば……

「今のうちにできるように」

悲しいかな、僕の地獄生きが早々と決まっていることになる。

僕は初めのうち、彼に出会うこともなく、椀を目の前に立ち去っていた。

それが、次には彼の真似をして泡を食べようとし、次には彼に会う前に自ら食べることを試みている気もするーー

生前のうち、その作法に慣れておけば、地獄では労せずしてデカイ面ができるだろうか?

期待のホープとして特別扱いを受けているのか、それともただの事前講習だろうか。

……新任研修を終え、一人立ちし、互いに食べさせ合うころにはーー

僕は、こうして誰かの夢で教える立場になっているのだろうか?

彼は、班長かなにかだろうか。

せめて地獄にぐらい、居場所はあるだろうか。

優しくしてもらえるだろうか。

まあ、行って見なければ分からない。そのときはあの"先輩"にお世話になろうと思う。

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