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異主 - 祀られもの

大手飲食チェーン店や小売業の店長職というのは異動がつきものだ。

僕があるところで働いていたとき、長い間、新任店長と顔を合わせるタイミングがなかった。

「君、大丈夫?」

はじめましてな挨拶に、返ってきた第一声がコレ。



なんだかんだ二人で、どこかに行く関係になっていた。

二人で飯を食っていたときだ。店長は、将来居酒屋をやりたいと勝手に夢を語り出した。

話半分で聞いていたが、どこかいい居酒屋か小料理屋を知らないか? と聞くので、ここら辺だったらどこそこがと説明し出すと、顔色が変わる。

そこに行くまでの道のりで、通らなければ行けないある場所が嫌だと言うのだ。

「いや、まあ……頭おかしい人の話だと思って聞けよ」

言うや否や店長は、身振り手振りに説明を始めた。

いわく、母方の家系に高名なお坊さんがいるらしく、その血か小さなころは相当霊感が強く苦労したとのこと。

僕もおかしな体験は多いですからと話すと、少し安心してある場所が嫌な理由を語り出した。

「ここら辺、龍神さん祀ってるとこないか?」

思い当たる神社、仏閣はいくつかある。とりあえず頷いた。



前任の店舗も関西だったらしいが、京都は初めてとのこと。こちらに転勤が決まって引っ越しをしたその日のことだ。

カーナビを頼りに、会社が社宅として借り上げたアパートを目指していた。

道中、どうにも運転席から見て右側が嫌な感じがする。

綺麗に真円を作る満月が光る夜道にどことなくはやる気持ちを抑え、吹き出す汗に信号待ちをしていた。

「ドン!」

車の天井がベコンとへこむかごとく音がして、車体が大きく揺れた。

普通なら驚き見上げるところだが、そこは霊的なものに日常悩まされてきた人間のこと。

現世のものではないと感じ、気付かぬフリを決め込んだ。青信号を合図に走り出す。

するとすぐに右上から闇が被さり、フロントガラスを真っ黒に埋め尽くしたというのだ。

目をつぶったわけではない。危うく事故になりかねない。ハザードをたき、路肩に車を止めた。

ーーなにか見たんですか?

そういう僕に店長は首を振る。

「俺の場合、二十歳ぐらいからなにかのきっかけで弱い霊は見えないようになってんだよ」

ーー見えないなら、まあ……

「でも、強烈なのは認識した時点で脳にイメージとして入り込んでくるんだよ……」

どうやら"見る"ということとは少し感覚が違うようだ。浸食されるように、強制的に、視覚とはべつのところで、その存在を認識させられるという。

「龍……俺が思う龍神が分かりやすい姿で現れたのか知れないけど」

とてつもなく大きな龍が車を覆うように、とぐろを巻いてズルズルと動いていたという。

やはり右側に強烈ななにかを感じてそちらに視線を移すと大きな黄色い目がこちらを睨んでいた。

恐らく、その首は車の進行方向と同じところを向いている。

ただ、目だけがギョロっとこちらを睨み見つめて動かないというのだ。

ーーそれで、どうしたんですか?

「事故覚悟で走ったよ。しばらく前、見えてなかったけどな」

まるで曇りガラスが徐々に明けるようにしてなんとかアパートを目指し、こちらへ赴任して来た。

ーーなにか、龍神に恨まれることでもしたんですか?

いや、いやと店長は首を振り、少し間を置いた。

「その近くで龍神さん……祀ってるとこ知らない?」

ーー僕もあまり詳しくは……

一度訪ねて見るのも縁と考えているのだろうか、そこでこの話は終わると考えた。

「あれ、祀ってるというか……無理やり抑えつけてるだけのような気がするんだよ」

気になることを言うもんだから、色々と突っ込んだ。



いわく、あれほど怒ってる形相は、確実に正しく祀られているものではないと言う。

よくは分からないが、ある場所に逃げられないよう据えつけられて、強制的に主扱いを受けて苦しんでいるのではないかというのだ。

「満月の夜はまだ大丈夫なんだよ。向こうもこっちもパワーがあるから」

まあ、女性が満月を見るのはあまりよくないと聞くが。満月に生まれた左利きのAB型(RH-)とか、神秘に包まれてそう。

「新月ならヤバかったよアレ。こっちのパワーだいぶ弱まってるから、喰われてたかも」

満月で自分を抑えつけるなにかから少し解き放たれた龍神が、助けを求めに来たか、あるいは助けられないと感じた瞬間に取って食おうとしたのだという。

霊力豊富な人間を取り込みパワーを蓄え、呪縛されているその土地からいつしか逃げ出そうとしているのかも知れない。そう店長は語った。

ーー龍神様からしたら、はた迷惑な話ですね。無理やり守護神扱いされて

「う~ん。でもアレそのうちヤバいと思うんだよな。普段は、パワー吸い取られてる状態だと思うんから」

京都は、色々と無理やりに気の流れを変えておかしくなっているところもあるだろう。

それでも無理くり主として据えつけるなど、神を神とも思わぬ暴挙というか、禁忌というか……

京都を走っていて龍神の鳴き声を聞くことがあれば、ご注意を。

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