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変熱 - ナンセンス

歳を重ねると弱くなる。年々、弱ってくる。もう虫の息。

あれだけ嫌がっていた病院にも、自ずから足を運ぶようになってしまう。

そのときは耐えられない高熱に、自宅から徒歩15分程度の開業医へ行こうとしていた。

へえこら住宅街に埋もれたそこを目指していると、道中、女性がうずくまっている。

「……ぃ……て……」

こちらに背を向け、なにやらブツブツ呟いている。が、生憎、僕は思考回路が完全にショートしていたので足を止める気にはなれない。

そもそも、そんな危なげな人に声をかけようとする人は少ないだろう。



病院で点滴を打ってもらうと、嘘みたいに熱は引けた。

薬をもらい、ややご機嫌に帰路を歩んでいるて、さきほどの女性が視界に移る。

(まだ、いたのか)

相変わらず電柱前でしゃがみ込んだ状態のままだ。

気にしないようにしながらも、近づくにつれてどことなく視界の端には映し込んでいた。

目と鼻の先に女性を視認したとき、妙な違和感を覚えてチラっとそちらを見やった。

まるでそれに支えられるようにして左手に釣竿を持っている。

夕方の住宅街に、女性が釣竿とともに座り込む姿はあまりにも奇妙だ。

行きに見たとき、釣竿なんて持っていただろうか? それどころではなかったので、気にも留めていなかっただけかもしれない。

「……ぃ…て……ぃて」

女性の呟きが近づく距離とは関係なく大きくなった気がした。

「……ぃて……み…て……みぃて」

気味の悪さに視線を落としたとき、もう一つ妙なことに気づいた。

靴がおかしい。

Tシャツ、ショートパンツ姿の多分まだ若いだろう女性にあまりにも不釣合いな上靴。

小学生が校内で履くような真っ白のゴムひものついたアレ。それも裸足に履いているように見える。

アンバランス通りこして、もはやシュール。

……なにフェチか、僕そんな趣味ない。

羞恥プレイ? 罰ゲーム?

チラチラとそちらを気にしながらも、女性の後ろをついに通り過ぎた。

「みぃて、みてみてみてみて、こっち見てぇ!みてみてみてえぇぇぇ」

突如、フェードインする大きな声に、心臓は叩かれ反射的に振り返った。

「見るな、シネ」

なにをどうして欲しいのか。こちらを見ずに一言もらして黙りこくった女性は、そこから動きがない。

軽い恐怖と状況把握が追いつかずに、僕は少し唖然としたあとで足早にその場を立ち去った。

なんかもうナンセンス。

呪いか知恵熱か。自宅へ戻って、見事に熱はぶり返した。

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