全記事一覧

初めの記事

ブログ概要

性悪 - 地獄霊の仕業

僕の周りは、姉さん女房をもらった人も多い。

しっかりされた素晴らしい人から、チャランポランでアレな人まで十人十色。

で、旦那の友達としてやたら気に入っていただけるのは、言わずもがな。

僕の知人とは離縁したのでもうただの他人だが、サトミさんという人がいた。

少々キツイ感じの人だったが、急に泣き出したり、旦那に「私は元彼が好きだ」と言い出したり……うん。ただの情緒不安定な痛い人だった。

ある日、サトミさんの元旦那、というか僕の知人から連絡があって、あれやこれや話していると遅くなった。

「泊まってけよ」

そう言われたので泊まって行くことにした。家にお邪魔させてもらうと、サトミさんが寝間着でゲームをしている。

「ああ、久しぶり。泊まってくの?」

もうかなり知った仲だ。明日朝早いから寝ると言い出した旦那を尻目に、サトミさんは僕をゲームに誘った。



もう何回ゲームオーバーになっただろうか。あまり集中もせず、お互い雑談に気を寄せ合っていた。

「なんか食べる?」

インスタントラーメンを人の嫁さんに作ってもらいながら、色々とふしだらをよぎらせぼんやりしていた。

「旦那には、言ってないんだけどさぁ……」

サトミさんは、僕の目の前に置いたラーメン鉢を両手で抱え持ったまま離さない。

お湯を注ぐタイプではなく、鍋で煮るやつだ。湯気が高々と立ち昇り、でき上がっている。

ズッ……

サトミさんは腕まくりするや否や、おもむろに鉢へ手を突っ込んだ。そのままグルグルと麺をかき混ぜ始める。

変わらぬ表情、回す手の二の腕をもう片方で支えるようにして素手で淡々と続ける。

眼前に広がるおかしな光景呆気に取られていると、サトミさんが鉢から手を抜いた。こちらを見やる。

「ね?」

サトミさんの細い手を艶やかに光ってしたたり落ちるスープが、かなり深く手を突っ込んでいたことを物語る。

まだ余韻を残してなだらかに回る麺を見て、意味が分からなかった。

「どう思う?」

そう聞かれてこう思う。この女、絶対頭おかしい。

なんの嫌がらせかもう食えない。いや、問題はそこではない。

なにしてんの……? 口を大きく開けて聞いた僕にこともなげにサトミさんはこう言う。

「私、熱くないの。おかしくない?」

すっぴんのどんぐり眼が、真っ直ぐにこちらをうかがっていた。

少しだけ見つめ合う時間があった。

試しに僕も少しスープへ触れてみた。声を出し、すぐに手を引っ込めた。とてもじゃないが、手を入れていられる状態ではない。

「でしょ? 旦那も多分、熱いって言うと思う」

多分もクソもない。僕の手の皮がぶ厚かったとして、これは無理だ。

いくら家事になれた女性でも、熱いものは熱いはずだ。ってか、この女、家事は一切やってない。

せいぜい、鉢を持って移動することに耐えうるかどうかレベルの話だろう。中身グルグルは次元が違う。

「口に入れたときはちゃんと熱いんだよ。あと、お風呂も熱い」

聞けば全て試したわけではないが、スープ系全般の温度を手から腕で感じ取ることができないらしい。

いつからこうだったかも覚えがないという。

「あのさ、旦那が”腰が痛い、痛い”って言うから触ったのね。そしたらそこも温度ないの」

ーー腰だけ?

「ううん。旦那が痛いって言うとこだけ」

患部だけが、ラーメンスープと同じくなにも感じないという。

ーーそれがどうしたの?

「うん……コレなに? って思って」

そんなことを僕に聞かれて分かるはずもない。知るかバカ。ラーメン食わせろ。

「でな……最近、寝てる間に触っていったら大体悪いトコ分かるの。温度ないから」

まあ、夫婦であれば毎日顔を合わせているわけだから、悪いところの一つや二つ……

そう言いながらも僕は、共同生活における勘がどうとか、日々の暮らしで垣間見る小さな変化とはわけが違うだろうことは分かっていた。

「べつに分かったからって直せたりとかはできないの。なにコレっ? て感じ」

ーーほかの人のは分からない?

サトミさんはかぶりを振った。

「かなり仲良い……ってか、私が一方的にその子のこと好きなんだけど、そういう友達のは分かる」

あまり思い入れのない人のは分からないみたいだ。どうでもいいが、ラーメンが食べたい。

不思議な話だ。

どこぞの霊能者でもあるまいし、心霊治療ができるわけでもない。悪いところが見つかって、結局のところ直すのは医者だ。

それでもその話が本当だとしたら、自分の大切な人の悪い部分を見つけられるのだ。いい能力じゃないか、僕は賞賛した。

「触ってみようか? 」

サトミさんはそう言うが、それこそ僕は悪いところだらけだ。病気が分かると弱っていくタイプなので、あまり見つけて欲しくない。

全部、温度を感じ取られても、なんだかヘコむ。

べつに人の嫁さんにそこまで大事に思われていなくて当然だが、それはそれでヘコむ。

そもそも、触ってみようか? のあと、なぜすぐに頭へ手が伸びてきたのか。

ラーメン食べたい……

丁重にお断りして、その場は不思議だねなんて適当に切り上げた。

後日、そのことについて色々と当たって行く中である人物にたどり着く。

カリフラワーお化けだ。

この前の饅頭を持ってこいというので、仕方なくそれを手土産に訪ねた。

ーーこれは、霊的なことですか?

先日のサトミさんの件を聞いてみる。

「ああ、ソレただの地獄霊だから。その人利用されてるだけ」

即座にこう言われた。

一瞬、地縛霊と聞き間違えて、家になにか悪いものでも憑いているのか聞いたが違うと言う。

「地獄よ、地獄。まあ、なんでもいいわよ。悪いやつら」

ーー悪いやつって……

「その人アレじゃない? 普段、怒りっぽいとかそんなんじゃない? アスラ(阿修羅?)系も憑いてるかもよ」

確かにサトミさんは言い方がキツイとかそういう類のものではなく、度を超えてふと信じ難い言葉を口にする節がある。

その後、なぜか泣き崩れたり、自傷行為におよんだりするのだ。タチが悪い。

「アンタみたいに自然と根性がねじ曲がった人とは違うってことよ」

……僕のことはいい。人間的な問題はさて置き。

「その温度を感じない部分? 悪いところじゃなくて”悪くしてる”のよ」

一縷の張ったように、繋がりが途絶えた。

サトミさんが温度を感じないところというのは、人が生まれ持った先天的に弱い部分なのだとシワ子は言う。

ラーメンスープがどうのは分からない。地獄霊に利用されて、人の弱い部分を見つけては、さらに痛めつけているのだという。

なぜ、思い入れのある人ばかりなのだろう? 無作為なーー無差別である方が地獄霊にとっていいのではないのだろうか。

「知らないわよ。自分の大切な人が弱れば、弱るほど辛いでしょ? だからなんじゃない?」

確かに。ニュースで知る見ず知らずの誰かが殺されるより、身近な人間が病に冒される方が辛い。

それも大切な人であればあるほど辛く苦しい。一理ある。

「その大切な誰かさんを弱らしていたのが自分だったあ~、なんて気づくと余計に辛いわけよ。その準備段階みたいなもんでしょ」

サトミに憑いている地獄霊とやらの狙いは、どうやらサトミさんそのもののようだ。

しかし先天的に弱い部分とは? 誰でも持っているものなのだろうか……

「うるさいわねぇ。知らないわよ。姓名判断とか四柱推命とか色々あるじゃない」

色々な占いで出てくる「この年に生まれたこの人は、こういった病にかかり易い」的なアレか。

でも、なにが目的なのだろう? ただ、悪いコトをさせたいのだろうか。その地獄霊とやらは……

「負の感情が溜まるのよ! そしたら地獄に行きやすいからっ! アンタ金取るわよ!!」

……アンタ地獄に落ちるわよ! じゃないんかい。アレは違うオバハンだ。

サトミさんに憑いた悪い霊が悪さをしているだけで、シワ子には詳しいことなんか分かりっこないとのことだ。

世にいう霊能力を有するもののほとんどが、この地獄霊に利用されてるだけでいいものではないという。

まあ、あのとき、サトミさんに触られることを拒否したことだけは正解だったと言える。

コメント

コメントの投稿

非公開コメント