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信頼 - 頼りなくて足る

世間様が、正月気分に沸くある年の暮れ。

もはやタコ部屋に近いところで、出稼ぎしていた。

「十の成功で得た信頼も一の失敗で失うからな」
どこかで誰かに言われて覚えたのか、偉そうに僕もこんなことを人様に口走っていた時期があった。

「今年は年越せるか?」

半分、本気で笑い合うオッサンと煙を交換する今の僕には到底言えない。

抜け落ちた歯の数を数えるより、たまたまそこに残っただけの残滓を数える方がよっぽど早い。オッサンたちは、決まってよかったときのことを話す。

「昔はどこそこの現場監督で……」、「若い時はそこら辺のビル建設を取り仕切る……」

なんの同窓会か。東京タワーを作った人だらけのタコ部屋は、わずかばかりの見栄と不安と不満で充満していた。

怠慢、不正、犯罪……忘れ物はいつも「やる気」で口癖は「疲れた」。忍耐の柱となる責任を嫌がるから、堕落するよりほかなかったのだ。

「自分だけは違う」

そう思っても、結局は同じ穴のムジナなのだ。信頼はもうない。



正月もすぎ去り世間が新たな年に踏み出したころ。タコ部屋から解放され、三重にある親の実家に一人おもむいた。

誰もいない広い家で一人すごしながら色々考えていて、ふと玄関に止めてある軽トラが目に入った。

運転免許を取り立てのころ、初めて母を乗せてこの地を訪れたとき。祖母も乗せて、三人で外食に行ったことがある。

後部座席で窓を全開にハシャグ母はいつものことだが、助手席の祖母は黙りこくって窓の上のバーをギュッと握りしめていた。

どうにもこうにも僕の運転が「怖い、怖い」と言う祖母だったが、それほど乱暴な運転んしてはいない。

「怖ぁて、よう乗ってられん」

祖母は、僕の運転する車にあまり乗りたがらなかった。

そんな祖母は、祖父の運転する軽トラには平気で乗り込む。

半身不随の酔っ払いが田舎道を暴走する危険車なので、よっぽどそちらの方が怖い。

おいなりさんの縮む思いをさせられたのは、タワー・オブ・テラーか祖父の軽トラぐらいのものだ。

いつからか祖父母と母と僕の四人で外食へ行くときは、祖母を乗せた祖父の軽トラが先導した。僕は母を乗せうしろをついて走る。

道路を半分に割るオレンジの線上をさも当たり前のように滑走するおかしな軽トラは、バカみたいに急ブレーキとクラクションを重ねる。

あまりにも危ないので僕は気が気でならなかったが、

「ああ、お父ちゃん(祖父)は大丈夫」

母は、いつもそうやって笑う。

祖母は、そんな危なっかしい軽トラの助手席でも寝ていた。

ビッコ引いた祖父が急かすエンジン音の少しあとに祖母は助手席に乗り込む。

そうして田舎道を走るおかしな軽トラは、いつも片道40分かけて祖母を街の病院へ送り届けに行く。

「この人なら大丈夫」

なにかあって、それでいいのだ。だって、大丈夫だから。

犬は信頼の置く飼い主へ背を預けて寝る。

馬は乗って、人は添う。

祖母は祖父の隣で寝息を上げる。

信頼とは不思議なものだ。

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