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汚塩 - 誰がために姿は変わる

商売をやっているわけではないが、実家のお隣さんはたまに玄関へ盛り塩をしていた。

実家住まいのときは、人の葬式から帰ってくると留守番の人間に玄関で塩をまかせてから家の中へ上がっていた。

凶事を避ける一種の民間儀式みたいなものだろう。

……一度、母が父に大量の塩をブチ撒けて、「ワシャ鬼か!」と、泣きながら怒られていた記憶がある。

「砂かけババア」と揶揄して、それまで笑っていた母にブチギレいかれたが……

一人暮らしを始めると普段は気楽でいいが、こういうとき非常に困る。

葬式から帰ってきても家の中から塩をふってくれる人間がいないのだ。

どちらかといえば気にするタイプではないが、小さなころからの習慣は、"やらない"ことがなにか気持ち悪い。

そのときは参列前にハタと思って、頭を悩ませていた。

仕方なく家の中を漁っていてオブラートが出てきたので、それに塩を包みテープで留めて持って行くことにした。



参列を済ませ、誰も待っていない自室の前に立つ。

懐に忍ばせたオブラートを取り出した。

そもそも式の最中、肌身離さず持っていたコイツを振り撒いたところで効果はあるのかいざ知れず。

ーーどうにもおかしい。

色が変わっている気がする。

座り込んで、丁寧にテープを解いて……

ドス黒く変色した塩が、その姿を現した。

……なにをどうすれば、あれだけ混じり気のない白だったものが、短時間でここまで黒くなるのか。踏み抜かれた雪のようだ。

気味の悪くなって、当時、住んでいたアパート二階のバルコニーから、オブラートの端をつまんで捨てた。

塩はハラハラと闇夜へ溶け込んだ。

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