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誘引 - 好奇心は猫に殺されるか?

もう何年前か忘れた。同級生の女の子が自殺した。飛び降りだった。

中学生の終わりに同じクラスだったことは覚えている。ほとんど登校しない、あまりいい噂を聞かない部類の人間だった。

夢を見たのは、彼女がこの世を去ったことを知る直前だった。

中学校の音楽室と思われる場所で、制服姿の彼女が立っている。そばに、もう一人女生徒がいた。こちらは、ヤスリで磨いたようにして顔が分からない。

っていうの? ゴメン。私、あんまり学校きてないから……また、遊ぼうね」

夢はここで途切れた。

なんの前触れなく見た夢だが、覚えはあった。

当時の担任の尽力によってわずかな期間だが、彼女が登校していた日々があって、そこで夢に見た光景ーーやり取りが、実際にあったのを思い出したのだ。

喉まで出かけている思い出せない名前にスッキリせず、近しい同級生のカタヤマへ連絡を取った。

アミか? あの香水と猫のにおいの」

そこで彼女の名前がアミだったこと、そしてもうこの世にいないことを知った。

自殺の動機は知らない。

ついでに思い出したことだが、大人になって僕が働いていた店に何度か客としてアミがおとずれたことがあった。

一度目は知った顔を見つけた表情だったが、知らないフリをしていて撫然とされた。

二度、三度と店で顔を合わせる度、アミは僕のことが分からなくなっている様子だった。思い出していくならまだしも、忘れていくのもおかしな話だ。
向こうでも気づかないフリをしていたのかもしれない。

「葬式、顔出すか?」

カタヤマに誘われ、これもなにかの縁と重い腰を上げた。呼ばれたのかもしれない。

一着しかない礼服を引っ張り出す。思えば、黒のネクタイばかりが出番になることの早い人生だ。……まあ、白より黒の方が僕には似合うが。

ーーアミは店にくるときはいつも派手な格好で、たいがい男連れだった。男は、同級生が中心に思えた。

頭のお花畑から抜け落ちたバカデカい蝶が肩に止まって、しまりのない顔した男たちが蛾のようにタカっていた。

保護者を自称する半グレに色と情で囲われた生き方をしていたのだろう。きっと、気づけば。



悲しみと喜びをそれぞれにこらえた愛憎入り混じる葬式への参列を終えて、カタヤマを探していた。

式は思った以上に人で溢れていた。寂しいものではなかった。

野菜と悪ノリをこよなく愛していそうな兄ちゃんたちが、いつまでも手を合わせている。そんな今に自己陶酔じゃないのかと、うがった物の見方しか出来ない自分が不安になった。

それにしても、カタヤマの姿が見当たらない。ケータイも繋がらない。いくらオカルト比定派@極めてタカ派だからといって、同級生の葬式でナンパもないだろう。

……やりかねない。かの神社辺りへこぞって参拝していそうな、さっきの兄ちゃんたちとトラブってはたまらない。

一人でウロウロしていると、そのうち声をかけられた。

どことなく覚えのある同級生たちだった。

アミと仲良かったの?」

ただ純粋に聞いてくるもの。アミへの勝手な好意から敵意を隠そうとしないもの。彼女への嫌悪から嫌味な笑顔を隠した風に装うものーー

意はそれぞれに、同じようなセリフで違う人間から何度も仲を聞かれた。

夢に出て来たから、顔を出しただけ。

もう何度目か、同じ理由の説明に辟易し出したころ、

「えぇ!?」と野太い声を上げる男がいる。

「俺も夢に出てきた!」

いつの間にか人だかりができ、みな口々に夢枕に立ったアミを話し出す。

出た、出ない。出た気がする……どうやら、アミが夢枕に立った人間とそうでないのがあるらしい。

男が多かった気がする。夢枕に立たれのは。

「あいつ、挨拶回りでもしてたのかなぁ……」

誰かが呟き、変にハシゃいでいた空気は冷めた。耳を傾けて聞こえないような音を感じる。全てが雑音になった。

「なんで……ッ!」

突然、一人の女の子が、声をつまらせた。耐えかねたように声を上げた。

「私のトコ出てくれないわけ!? ずっと、仲よかったのに……ッ!」

ついには泣き出したマイコと呼ばれるその子を、いくらかの女の子がなだめていた。

「一番心配かけたくなかったんだよ、きっと」

痛々しいものを見る目が万延していた。

僕にはマイコとやらが、半分、演技の入っているような気も、それに本人が気づいていないような気もした。

知らず人だかりは解け、僕は気づけば一人になっていた。その場を離れようとして、見失っていたカタヤマが小走りに近づいてくるのが分かった。

「情報集めてきた」

手を膝にやって肩で息するその姿さえ、僕には嘘に思えた。



カタヤマと二人で夜道を歩いて帰る道中、アミのことを色々と聞いた。

アミが学校という場に姿を現していたのは、実質中学生の終わりの一時期だけだという。高校には行っていない。小学6年生で転校してきたらしく、それ以前のことは誰も知らない。

僕は先ほど話題になったアミの夢を、詳しく話した。霊的なものを一切信用していないカタヤマは、ご立腹の様子だったが、

マイコが泣いてたって?」

少し、引っかかったようだ。

「あの子、一番アミに嫌われててな……」

言われて、僕が引っかかた。マイコは、自称アミの一番の親友なハズだ。

「転校してきたとき、一番にアミと仲良くなったんはマイコらしいわ。それからもつき合いはあったらしい」

なるほど。僕が見た夢のアミにつき添っていたのは、マイコだったのかもしれない。

……なら、なぜ嫌うのか? 夢枕に立ってやってもいいではないか。どこかで猫が鳴いた。

「不幸なアミちゃんに優しい私、いい人でしょ感がありありと出とるて。俺も転校多かっから、そういうの分からんではないわ」

カタヤマが少し後ろを気にした。

マイコの純粋な善意が悪意になってハネ返ったのか、それとも、卑しい感情がマイコ自身にあったのかは知らない。

人なんて、相手が思っている以上に「なにかしてあげた」気になっているし、「なにもしてもらっていない」気になっているのが常だ。

……気の毒なのはどちらになるのか、僕には分からない。

ーーやけに猫の鳴き声がする。

振り返ると金目を光らせたやけに艶っぽい黒猫が、こちらをうかがっていた。そのまま、ナァ~と鳴く。

「また遊ぼうね」

心配しなくても地獄で待ってくれていれば、そのうち行く。

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