全記事一覧

初めの記事

ブログ概要

袋中 - 親中丼

僕には父方の祖父の記憶がない。

生まれたときには、すでにこの世を去ったあとだった。父でさえ、あまり記憶がない時分に他界しているのだから仕方ない。

「私も生まれる前におじいちゃん亡くなってるんですよ」

十時間ひたすら「がんもどき」だけを製造する地獄の中でパートのシミズさんがそう話してくれた。

「でもね……」

主婦らしい慣れた手つきで、器用に"がんも"を作りながらシミズさんは続ける。

「みんな信じてくれないけど、私おじいちゃんに抱っこされた記憶あるんですよ」

どうでもいいが、がんもが上手く作れない。

「家族が言うには私が産まれる前に、もうなくなってた、って。でも顔だってなんとなく覚えてるし」

不思議な話だ。

幽霊にでもあやされていたというのか。

がんもが上手くでき上がらない。

「あ、おかしいですよね。急にこんなこと言い出して」

おかしい……なにをどうやってもブサイクなものしかできない。やられすぎたアンパンマンみたい。

「布団の中で抱っこして添い寝してくれたんですよ。ゆりかごみたいで、すっごい気持ちよかんです」

それが今だに引っかかっていて、どうしても真相を知りたいのだけれど、どうしようもないのだという。

旦那さんに言っても、「またその話か」という顔をされるので家では話題に出せず、そこかしこでこの話をしているらしい。

「イタコの知り合いとかいないんですか?」

人をなんだと思っているのか……。いるわけがない。

いませんよ。どうして? 機会がなかったからです。ホントに?

僕であれば普通じゃない人と知り合いなハズだと、シミズさんは割と本気で当たってくる。

……たいがい、しつこい。

「えー、でも。なんかさんの周り変な人ばっかいそー」

なぜ主婦は、笑顔でサラリと嫌味を挟んでくるのか。言わないと気がすまないのか。

年上の主婦じゃなかったらブッ飛ばすぞお前、って口寄せより口づけすんぞ「えー、でもぉー」じゃねえよ、二次関数的に語尾上げんな歳考えろテメッ……



そんな折、たまたまミサキ(不信参照)さんに、このことを話してみた。

「お母さんのお腹の中にいるときの記憶なんじゃないかな」

そういうのあるらしいよ、と言われれば、そうなんですか、となるわけで……

伝書バトのようにシミズさんへ、ミサキさんの意見を伝えた。

「なるほど……そういうことなんですかねぇ?」

ーーさあ、でもあるらしいですよ

え? と、シミズさんの動きが止まる。

目をやって手を止めた僕に、シミズさんは虚空からこちらを勢いよく振り返った。

「でも、それって! 私がお腹にいるとき、おじいちゃんと私の母親が一緒の布団で寝てたってことですよねえ?」

これでもかと目を見開き、鼻息ムンムン迫られても困る。

ーーそういう考え方もできます、ね

「抱っこして添い寝で、揺れながら凄い気持ちい……っ!」

それはなにか、つまりシミズさんのお母さんが身重で実の父親とアレして、いんぐりもんぐりなオッパッパだというのか。

見合わせたまま固まっていたが、気まずくなって自然と離れた。

ーー考え過ぎですよ。自称霊感少女の言うことですから

仮にミサキさんの見解が正しくて、うがった見方をしすぎだ。

「ですよねぇ……」

引きつった笑顔のシミズさんは、珍しくいびつながんもを作り、手を震わせた。

「ああコレ……タマタマ袋みたいですねぇ」

コメント

コメントの投稿

非公開コメント