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識石 - おもかる石其ノニ

以前、智石という題目であまり石に関係のない伏見稲荷での出来事を書いた。

その文中で、「一度目はまだ物心つくまえ、母親の実家のある三重県で……」とした、その三重での出来事だ。

当時、以前に発症した盲腸が再発しそうだというので、家族は僕のことを心配していた。

と、いっても、僕の様子がおかしくて心配してもらえる時期だ。まだ幼稚園を上がったかどうか……それぐらいのころの話だったように思う。

盲腸でさえ、腹部にある小さな傷跡だけが、患った事実を教えてくれる唯一の証人なのだけれど。

そんな中で鮮明に覚えていることがある。

母の実家に帰省したときのこと。祖母が近くにある「不思議な石」に僕の盲腸が再発するかどうか聞いてやると言い出した。

祖母と母に手を引かれ、僕は不思議な石へ会いに行った。

記憶によればかなり大きな石で、伏見稲荷のそれとは違い、さざれ石のようなものが一つ。木枠で囲まれ、置かれているだけのものだった。

祖母いわく、この石は「なんでも答えてくれる石」だそうで、聞きたいことを口に出してから石を持ち上げる。

すんなり持ち上がれば答えはイエス。

逆にビクともしなければ答えはノー。

の盲腸はもう出ない」

祖母は言って、ひょいと石を持ち上げた。

の盲腸はまた出る」

言って、また石を持ち上げようとする。

「あぁ~、重たい、持ち上がらんわ」

腰をさすった祖母は僕の方を振り返り、

「盲腸はもう出んから心配すんな」と、頭を撫でた。

(祖母がワザとやっている)

子供心に僕はそんなことを考えていたら、そばで笑っていた母が私もやると言い出した。

意気揚々と祖母と全く同じことを行う。

恐らくこんなのは嘘だと思いながらも、祖母と同じことを僕の目の前でやって見せることが目的だったのだと思う。

結果は同じ。

だが、母は若干の驚きを見せた。

子供は大人の反応に敏感だ。立ち合う術を知らずとも、子供騙しかどうかの判断はつく。

この時期、誰よりも長く、近くで見ている母という大人が、嘘か本当かぐらい見抜いてしまう。

母が見せた驚きは本物だった。少なくも幼い僕にはそう思えた。

それでも、どうにも信じられない僕は、祖母に手を借され自分でやった。

ーー結果は同じ。

なお、ヒネくれていた僕は、祖母が力を入れたり、抜いたりしているのだと疑った。

危ないから、止める大人を振り切り、一人で石に向かう。

今、考えてみてもよく分からない。

おおよそ幼児には持ち上がらないであろう石がひょいと持ち上がったり、根をはったかのごとく持ち上がらなかったり……

どこかにスイッチがあるんじゃないだろうか?

交互に「上がる」、「上がらない」の仕組みなんじゃないだろうか?

ひねくれ者の僕は、上から下から表に裏にーー四方八方覗き込んだが、変わった様子はない。

そうこうしていると祖母が、

「あんまり聞くと怒らはる」

そう言い出し、三人で手を合わせてお礼をするよううながした。

「供えもんもないしな。また、持ってくるで」

目をつむり言われた通りにしていて、祖母の声がした。

"また、持ってくるで"祖母は、二つに割った言葉の半分を、僕らとも石ともつかず置いて行った気がする。



「え? なんで? ホンマになんでなん?」

家に帰ってから、はしゃぐように祖母へたずねる母の姿を覚えている。

「だから神さんや」

ミカンの皮でも剥いていたろうか……祖母は、素っ気なく答えていた。

「あんな石、昔からあった? 私、知らんかったけど」

「昔、わち(私)が守り(世話)しとったさけな……」

のらりくらり母をすかす祖母は、依然として詳しいことを語らなかった。

「あんまり、ええ神さんでもないしな」

それだけ言って席を立った祖母は、そのまま仏間へと消えていった。



おかげ様かどうか、あれから盲腸は一度も再発することなく過ごせている。

伏見稲荷での出来事のあと、気になった僕は母へあの「不思議な石」についてたずねてみた。

母もその出来事はよく覚えていたようで、うんうんうなづく。それから首を捻って、少しばかり寂しそうに呟いた。

「バアちゃんに聞かんと、場所分からへんよ」

ネットを当たればそれらしきものはあるものの、祖母が他界した今となっては確証を得るものがない。

母の弟(伯父)も、その嫁(伯母)も、従姉妹に当たる内孫の二人でさえも詳しくは知らなかった。母も僕の一件に着いて来たきりだ。

従姉妹の上の子が一度、連れて行ってもらったことがある気のするだけ。伯母は、その存在さえ知らされていなかった。

「でも、なんで私にも教えてくれへんかったんやろう……」

例え子でも、母から娘へでもーー

教えられないコトはあるのかもしれない。

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