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初めの記事

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不信 - 信じない人

同窓会で泣きそうな顔をしているやつは、たいがい一人か二人はいる。

お前はなんで来たんだ? と言いたくなるぐらいにミサキさんは大人しかった。

逆に誰が連れて来たんだ? という目で見られるやつも一人はいる。そして僕は大体そういうやつとお友達認定をくらう。

そのとき暴れていたのは、金・女・時間と三拍子揃ってルーズな救いようのないカタヤマという男だった。

次々に入れ替わるターゲットに例外はない。問答無用で完全にロックオンされて、ミサキさんもほとほと困り果てていた様子だった。

「ちょっとアレどうにかしてよ、アンタ目つき悪いんだし」

なぜ僕なのか?

目つきの悪いのが理由になるのか?

そもそもアナタは誰なのか?

有り余る疑問は飲み込み、僕はさほど知りもしないミサキさんの救出へ向かった。

「この子、ユーレイ! 見えるって! 心霊スポット行こ! このあと! すぐ! 教えろ! ! 知ってっ、トコ!」

単語でしか喋れんのかお前は。

騒ぎ立てるカタヤマを無視し、どうにかしようとチラリ見てミサキさんと目が合う。

……凄い勢いでうつむかれた。

当時、僕は日に二度もお巡りさんから「ナニしてるのー?」と声をかけられたり、社会人らしからぬ風貌を「親御さんが泣いている」と上司に泣きながら怒られていたので無理もない。

軽い傷心とカタヤマを引きずり、その場を離れようとしたとき、

「この子、心霊スポットじゃなくても急に泣き出すで、なんか悲しい気持ちもらうねんて」

ミサキさんの近くで笑っていた女が、急に話へ割って入って来た。

「私、アヤノやで! 覚えてる? 心霊スポットみんなで行く? 最近、そんなん全然ないね~ん」

覚えてない。行かない。全然なくてよろしい。

「ノリの良さが取り得やで!」ご丁寧に自己紹介してくれたマシンガントークの女に無差別テロをかまされ、同窓会終わりの心霊スポットツアーが強行された。

ゲリラかお前は、不意打ちにもほどがある。



無論、そんなバカな行為に参加したのは言い出しっぺの二人と、強制参加の僕とミサキさんだけ。

みんなそれほどヒマではない。

そして言い出した二人は、案の定心霊スポットなど知りもしない。

とりあえず近くのファミレスへ車を走らせた。

「この席ちょっと……」

霊感少女の本領発揮か、ミサキさんが案内された席を嫌がった。

「アンタまたぁ……? じゃあ、どこがいいんよ」

「だって……」

こんな展開、漫画でしか見たコトない。なんだかドキドキする。よくあることなのかムッとしたアヤノをなだめ、そのまま店を出た。

店を出るさいにすれ違ったカップルが、なんだかうらやましく思えた。



車内に気まずい雰囲気が漂っていた。変に耐えられない性分が災いして僕は思わず口を突く。

ーー年中、雨戸を閉め切っていて異様な空気の漂う、キープアウトの黄色いテープが貼り付けたままの民家がある。

そこは受験ノイローゼの息子が一家を惨殺したあと、自らの命を絶った事件跡で裏側の窓から家の中に忍び込むと、当時の血痕や洗濯物もそのままに生々しいーー

正に水を得た魚、行き先はすぐに決まってしまった。ミサキさんが、さらに落ち込んだ。



「あ、私……おかしい人じゃないから」

道中、ミサキさんは遠慮がちに後部座席から取り繕っていた。

心配しなくても、そんないわくつきの民家を知っている僕の方がよっぽどおかしい。

若気の至りといえど中にまで入ったことのあるぐらいだから、まともな精神構造はしていない。

ーー霊媒体質? 引き寄せるみたいなこと?

「うん……言われたことある」

厄介なものを引き寄せる体質は似ているが、僕の場合たいがいが生きている人なので種類は少し違うようだ。

「似たもの同士だね」無理やりな笑顔のミサキさんに、引きつったほほ笑みを返す。

お宅さんも十分厄介なんですけど、とは言えずーー



国道を抜け、件の民家にもう少しで着くというところでミサキさんがしきりにお腹をさすり出した。

「痛い、痛ぃ……」

次第に声まで出てくるものだから、コンビニへ引き返しトイレに行くか聞いたが、首を横に振るばかり。

しまいに涙しながら、頭も痛いと言い出し、腹をさすりなにかを避けるように首を動かす。

「え、ホンマに大丈夫? どっち? 普通に痛いの?」

そう聞くアヤノに一度は「分からない」と答えたものの、ミサキさんはすぐに意味深な発言をした。

「赤ちゃんもらったかも……」

腹の中が痛くて頭が割れるだ。中絶しか思い浮かばない。

ーー誰かさんの水子やったりして

ミサキさん以上に青い顔をしたアヤノの真意は図りかねる。僕も頭が痛い。余計なことを口走る自らの無神経さに。

「さっきの石がいっぱいあったトコからだと思う。……違う、ファミレスですれ違った人かも」

道中、おそらくは無縁仏の集合体だろうと思われるところはあった。薄気味悪く感じたが、あえて話は振らずに通り過ぎた場所だった。

ミサキさんは、気づいていたらしい。

ファミレスを出るときにすれ違ったカップルの可能性もあるらしいが……

ミサキさんがこんな状態で件の民家に行くわけにも行かず、僕は一旦、車を路肩に止めた。

「あのなあ、ハッキリゆうて幽霊なんかいいひんねん」

途端、カタヤマが諭すように声を出した。

「思い込みやねん。フライドチキンにされた鶏はどうなんねん? 化けて出たゆう話、聞かんで。俺、週一で食うとるけどどこも呪われてへん」

どうでもいいという感じでミサキさんは言葉に反応せず、泣きながらお腹をさすっていた。

「分かった。逆に俺を信じられるようにする」

言ってカタヤマは、僕に道を引き返すよう偉そうに指図した。

言われるがまま進んだ先、途中で「止めてくれ」と言う。

あの、無縁仏の場所だった。

「結局、心霊スポットみたいなもんやん、なにすんの?」

そう聞くアヤノカタヤマは、幽霊、呪いなんぞこの世にないことを証明すると言い出した。

一人さっそうと車を降り、こちらを振り返るとカタヤマは不敵に笑った。ように見えーー

「んなもん、関係あるかボケぇ!」

闇夜に轟く関西弁。カタヤマはあろうことか無縁仏に蹴りを入れた。

幽霊云々以前に倫理道徳がだな……

「呪えカス! 死人の分際でコラッ! 死ねボケ!」

もう死んでるから。さすがに焦って止めさせようとしたが、カタヤマは僕を無視して手当たり次第に無縁仏へガンガン蹴りを入れる。

「神童と呼ばれたカタヤマ様のゴールデンレフトを喰らえ!」

主に右でしか蹴っていない。そもそもお前、ただのサッカー部だろ。しかも補欠。

「サッカー部ナメんなよ! 背番号なかったけど!」

補欠ですらなかった。

「二日しか行ってへんけどな!」

それ、やってた言えへん。

「仏は友達ー!」

仏がお前なんかと友達になるか。ああ、某サッカー漫画に触発されたただのミーハーか。確かにミサキは苦しん……仮名だ。

ーー止めろ

男は、ジャニーズJrに応募して書類落ちした過去を暴露され、ようやく静まった。

「姉が勝手に応募したことにした」こととか、「ジャニーさんからの電話を待っていたこと」とか……

「な? こんなんただの石やで。絶対、なんも起きひんから、ポンポン痛いんも気のせいや」

汗ばんだカタヤマミサキさんへ笑顔を向けた。薄気味悪かった。

「凄い……消えた」

ミサキさんが呟いた。

思わず注目したが、ミサキさんは腹をさすりながら、しきりに「出て行った」と言葉をこぼす。

「な? 痛いの痛いの飛んでけー、やろ?」

カタヤマ流の除霊だ、ミサキさんへフォローを入れたつもりだったが、幽霊なんかいない! とカタヤマはまた怒り出した。

おかしな空気に困って、無縁仏がもらってくれたのか、とそれらしいことをミサキさんへたずねた。彼女は、ブンブンと首を振る。

いわく、カタヤマは「信じなさすぎて」一種、強烈なバリアを張れるのではないかとのことだった。

カタヤマが無縁仏を蹴りまくったときに、お腹から「怖い」とミサキさんの言うところ赤ちゃんが出て行ったそうだ。

「だ・か・ら! 幽霊なんておらんねん!」

最後の最後までカタヤマは騒いでいた。

が、アヤノからお近づきになることを勧められ、「除霊のお礼に」とミサキさんから連絡先を教えてもらってから大人しくなった。



なんでも寄せ付けてしまうミサキさんは、同窓会で厄介な男まで引き寄せてしまったようだ。

なにがよかったのか、知らぬ間に二人はくっついていた。

それどころか「この人といると悪いのがこない」と、ミサキさんは結婚まで視野に入れているそうな。

人が人と居る理由はそれぞれだろうが、まあ、そんなこともあっていいんじゃないかと思う。

お慰みなことにアヤノはお土産をもらったらしく、なにかが見える! と、しばらくそこかしこで騒いでいたらしいが……

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